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2016/06/28 彼に好意をもつまいとしたほど

 久々に映画を観に渋谷に行った。
 劇場で観るのは先月の上旬頃に池袋でフリッツ・ラングを4本観た以来で、今日の目当てはジョージ・キューカーの『奥様は顔が二つ』とジョゼフ・L・マンキーウィッツの『イヴの総て』だった。明日も同じ劇場で二本立てを観るつもりだったので、電車賃を浮かせるためにメトロの24時間乗車券を買って、ラスト2本の上映時間に合わせて電車に乗った。けれども、久々の電車移動だったせいかだいぶもたついてしまって、渋谷に着いた時点で既に『奥様は顔が二つ』の上映時間になっていた。
 とりあえずは劇場に向かったけれど、劇場一階のエレベーター前に着く頃にはもう上映開始時刻から15分以上経っていた。二本観るにしても一本だけ観るにしてもチケット代に大きな差はなかったけれど、90分の映画を15分以上遅刻して観た気になるのは嫌だったから、もうこの回の上映は諦めて、最後の上映までの間どこか別の場所で過ごすことにした。

 古本を見に行くか、喫茶店かと少し悩んでから、劇場にほど近いところにある名曲喫茶に行くことに決めた。
 その途中で、派手な赤いチェックの制服を着た、高校生くらいの年齢をした5、6人の女の子とすれ違った。目に入ってすぐにアイドルだとか、なにか芸能活動をやっている子たちだなと分かった。割にみんな明るい表情をしていて、派手な衣装を着ているのを除けば、部活帰りに街を歩く女の子たちのグループだとかと変わりない、さわやかな雰囲気をまとっていた。

 名曲喫茶は、以前に来た時よりもだいぶ空いていた。19時の定期演奏前だったから、そのせいもあるのかもしれない。
 一階の階段側の席に着いて、すぐにホットコーヒーを注文した。それから雨と汗で湿った上着を脱いで、水と一緒に出された6月の定時演奏のプログラム表を眺めていた。その時に掛かっていたのはピアノ主体の曲で、かけ終わった後の店員の説明では、モーツァルトの曲だということだった。
 コーヒーは前とおんなじような、作り置きを煮立てなおしたような感じの味でお世辞にも品のいいものとは言えなかったけれども、こうして古めかしい大きなオーディオ機器の前でクラシックを聴いていると、そんなことは小さなことのように思えた。とは言っても、モーツァルトの後の歌曲も、その後の曲もまったく知らないもので、誰の作曲かはもちろんのこと、どれくらいの時代のものなのかさえまったく検討もつかなかったのだけれど。

 40分ほどの間、今日のことについてあれやこれやとまとまりのないメモを書いたり、何をするわけでもなくかかっている音楽や、厨房の方から聞こえるコーヒー豆を移し替えるザーッという音に耳を傾けたりしながらぼんやりと過ごした。


 店を出た後、まだ開場まで少しだけ時間があったので、近くのコンビニエンスストアでふたつで140円のパンと、鞄に入れても嵩張らなさそうな小さいサイズのペットボトルに入った水を買って、それから劇場に入った。『イヴの総て』はいい映画だった。

 最終回の上映が終わったのは22時10分前というところで、まだ少しぶらつけるだけの時間があったので、音楽を聴きながら道玄坂付近を大きく一周して、それから古本チェーンに入り、気になっていた本が幾つか見つかったので、しばらく悩んだのち、5冊買って、それから電車に乗って帰った。