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2015/11/10 ビールを飲みながらうんうんと相槌をうっていた

日記 喫茶店

 良い映画を観た後はだいたい、この映画について語り合いたいと思うものですが、イトウさんとはいつも18時過ぎ頃には別れる約束をしていたので、後ろ髪を引かれつつも駅の改札口まで送ると伝えると、意外にも彼女の方からお誘いを受けました。それも、その辺の喫茶店だとかではなくて、フーターズに行きたいと。

 以前からフーターズに行ってみたいという話を聞かされてはいましたけれど、正直言って乗り気ではありませんでした。いち男性の性的好奇心として行ってみたいという欲求は当然あるにしても、女性と行くのは気が引けましたし、思い立ってすぐにフーターズに行けるほど財布の事情もよくありませんでしたから。
 角川シネマ新宿フーターズは反対の、新宿駅を挟んだ向こう側にあるという話だったので、とりあえずは新宿駅まで行きましょうと伝えて、その間押されっぱなしで、苦笑いを浮かべながらどうしようか、と、頭のなかで色々考えを巡らせていました。結局は今ひとつ考えもまとまらないまま新宿駅に着いてしまい、イトウさんの方もすっかり乗り気になってしまったので、場所を探して見つけられたら入ってみよう、という話にしました。


 フーターズは東京だと新宿の他にも新橋や渋谷などいくつかあって、新宿の店舗は、JR新宿駅の西口を出て、ヨドバシカメラ新宿西口本店のあるビル街にありました。店舗は地下にあるため、外から中の様子を伺うようなことは出来ませんが、やたら大きな看板が表にあり、そのうえ夜間だとライトアップされているらしく、少し見渡すだけでもああ、あそこか、と分かるくらい目立っていました。

 表にあるメニュー一覧を観て、財布が耐えられる程度の値段なのを確認すると、階段を降りて地下へ。地下の割に店内はかなり広く、席もかなり数がありました。2名だと伝え、階段を降りると大きな声で挨拶をしてくれて、それから壁際の席に案内されました。まだ日は暮れてそれほど経っていなかったためか、まだそれほど人は多くありませんでした。
 席について、店内を見渡していると、胸元を露出した店員さんがやや机に乗り出し、胸を強調させながらメニューやらトイレの案内やらをしてくれました。ただ、当の私は「下心を出してこんなところに来た挙句、見栄っ張りで女性まで連れ込んでいる嫌らしい奴だ」なんて思われてないかと考えている内にすっかりどぎまぎしてしまって、冷静を装ってええ、そうですね、と返事をするだけでいっぱいいっぱいだったのですけれど。

 それからメニューをあれこれ見て、とりたててがっつり食べる気もないから半分こにしようという話になり、 シーザーサラダと、テキサスナントカとかいうサンドウィッチ、それからアイスコーヒーとジンジャー・エールを頼みました。店員さんのほうで気を利かせてくれて、サンドは分けやすいように半分にしてくれる、とのことでした。
 注文してからメインのサンドがやってくるまでの間はずっと2人で他のお客さんやフーターズガールたちをずっと観察していました。さんざん来るのを渋っていたけれども実際目にしてどう思うかとか、10点満点で点数をつけるならいくらかとか。フーターズガールを選ぶ際の採用基準はなんなのか、一番重要視するのは胸と顔のどちらなのか、とか。それから、女性にはみんな同じ服装で同じように胸元を見せていても、パッドやら見せ方でいくらか誤魔化している胸、整形でシリコンが入っている胸、ナチュラルに豊満な胸の判別ができる、という話を聞かせてもらいましたっけね。

 アメリカンサイズのドリンクとシーザーサラダがやって来て、それを食べ始めてしばらくすると、フーターズガールのダンスやらが始まりました。BGMに合わせて女の子たちが踊ってくれて、私たちは手拍子をしたりしていました。曲は00年代以降の洋楽で、どこかで聴いた覚えのある曲だったのですけれど、思い出せませんでした。

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 それからサンドイッチが来ると、しばらくの間は話半分に、食べる方に集中していました。サンドイッチといっても、バンズの代わりに食パンを使ったハンバーガーと言った感じで、中身はハンバーガーに入っているようなとびきり分厚い牛挽き肉のハンバーグとベーコンが2枚入っていました。ポテトはスパイラルカットのもので、イトウさん曰く、フーターズといえばこのくるくるしたポテトなのだとか。

 食べ始めたころから大分お客さんが増え始め、仕事帰りのサラリーマンらしき2,3人組や面白もの見たさにやってきたらしい大学生、中国人観光客など色々な人が集まってきました。イトウさんが聞いた話ではフーターズガールの方でも接客にはある程度の基準があるらしく、ある程度年配のサラリーマンには積極的にサービスをして、年齢が下がるごとに極端なアピールは避けるようにしているみたいです。それから女性連れのお客さんは、うっかり羽目を外しすぎて女性に幻滅されたりすることがないように、少し会話をする程度で出来るだけ目立った行為は控えるとか。私たちのところは、女性連れのうえに酒類も注文しなかったためかそれほど来ることはなく、前を通った時に微笑みかけてくれたり、食べ終わった食器を下げる際にいくらか会話をするくらいでした。

 いくらか食事も落ち着いたところで、また女の子たちについての話をいくらかしました。
 どの子も胸が大きくて肉づきもいいけれど、やっぱり日本人では背が足りないなあという感じがある――性的欲求を刺激されるような奔放な美というよりは、かわいい、というのに近い。私よりも頭一つ分以上小さいし、顔も幼すぎるから、今ひとつ刺激的に感じられない――やっぱり、こういう格好は欧米の背の高いブロンドの女性でなくては!――とか、そんなことを言った覚えがあります。それから、どの子も胸よりもお尻のほうがキュートだ、とかよくわからないことも言ったかも知れません。

 それから、イトウさんに「トイレなんかはどうなっているんだろう、男性用トイレなのにやたら個室が多い、なんてことがあったり……?」なんてことを言われたので、トイレを確認しに行ったりもしましたっけね。個室が多い、なんてことは流石になかったですけれど、小便器の目の前に胸の大きな水着女性の写真が表紙で、"BORN TO BE WILD"なんて見出しの書かれたパルプマガジンの写真が飾られていて、「用を足しながらこれを見て、どうしろって言うんだろう」なんて考えると、苦笑せずにはいられませんでした。

 戻ってしばらくするとまたちょっとしたパフォーマンスが始まって、それから残ったジンジャー・エールを飲んだりしていましたが、どうにもすっかりフーターズの空気にやられてしまったようで、散々しようと思っていた映画の話が、全然出来ませんでした。ここはこういうことじゃないか……とか、あのシーンがすごく良かった……というようなことを色々考えたりはしていたのですけれど、どうにも口に出すことが出来ませんでした。
 もっと話をしたいことがあるのに、なんて考えている内にジンジャー・エールも大方処理してしまって、そのまま会計を。でも、店を出る前に見栄っ張りで、相手をしてくれたフーターズガールの女の子に「とってもセクシーでお綺麗でした」と一言だけ伝えると、とっても素敵な笑顔で見送ってくれたので、いくらか元気も出ました。

 とにかく店にいる間はずっと雰囲気に飲まれてしまっていて、なにか余裕をもって誰かと話をするのは、まだ私には難しかったみたいです。中にいる間は、まるで社会科見学に来た中学生みたいな調子で、外へ出ても暫くの間は身体が火照っていました。
 イトウさんを改札口まで見送って、それからしばらくは東口を意味もなくぶらついて、それから紀伊國屋書店の通りにあるブックオフで何冊か文庫本を買って、電車に乗り、帰りました。