読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

アーサー・C・クラーク「イルカの島」

アーサー・C・クラーク「イルカの島」

密航したホヴァーシップが沈み、ただ独り海上にとり残された家出少年のジョニー。彼を救ったのは、一群のイルカたちだった。彼らに運ばれていった先の孤島では、科学者たちがイルカ研究のために暮らしていた。しかも所長はイルカ語を解し、このイルカたちも人間と意思疎通ができたのだ。名匠が、大海原の神秘と景観を余すところなく描く。(東京創元社より引用)

 「2001年宇宙の旅」に続き、アーサー・C・クラーク作品に触れるのは今回で二作目。クラークのSF作品群と言えば、「幼年期の終わり」「火星の砂」「宇宙のランデヴー」などが著名であり、この「イルカの島」は、氏のこうした作品群のなかでもさして高いわけではない。
 しかしながら、家出少年ジョニーがイルカ研究施設のある島に漂着する……といったような古典ジュヴナイル的な物語は、非SF者にとっては非常に受け入れるに易く、「2001年宇宙の旅」で味わった密度の濃い宇宙体験によって半ば胸焼け気味の私にも、爽やかな体験をもたらしてくれるものだった。

 今作品は近未来や技術革命極まる超都市が舞台ではなく、ほとんどこの作品が書かれてから数十年後、2010年の未来(私たちにとっては既に過去であるのだが)のグレート・バリア・リーフの一島が舞台である。また、その中で描かれる世界も、まったく超越的ではなく、またこの作品の一番の課題はそうしたものでなく、むしろそれまでのジュヴナイルを踏襲した、少年の成長という一点である。
 家出と言う不徳を犯したものの、よき友だちと親のような温かみを持った研究施設の教授たちに囲まれて、それまでに得られなかった新鮮な喜びを得ていくジョニーの姿を描きながら、人間以上に地球と言う惑星を観測し続けたイルカと言う動物との交信・協力のなかで、自然と言う乗り越えられない壁を乗り越えようと奮闘する少年の力強さ、未知なるものへの挑戦、そしてそのために育まれる学びの心地よさを、他のSF作品には見られないさわやかさでもって伝えている。
 むろん、クラークらしいSF的想像もそこかしこに散りばめられており、イルカの交信の術を学んでいくカザン教授の奮闘や、イルカたちによって示された人類誕生前の地球に、核をエネルギーとする宇宙船が地球に着陸した可能性など、この物語で終着が見られるわけでこそないものの、その感性を刺激する神秘への探求は今作でも健在である。

 ジュヴナイルSFと言うのは、藤子F不二雄や手塚治虫のマンガ作品をはじめとして現在の日本では広く親しまれているが、こうしたSFのビッグ・スリーの著作も、是非少年向けSFの選択肢として、これからは積極的に受け入れていきたいところ。これから来る夏という季節にぴったりの作品でもあるので、是非夏の友にもしてほしいものだ。