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ダニー・ボイル「トレインスポッティング(Trainstpotting)」

トレインスポッティング(Trainspotting)

監督: ダニー・ボイル   脚本: ジョン・ホッジ
原作: アーヴィング・ウェルシュ
出演: ユアン・マクレガーケリー・マクドナルドユエン・ブレムナー

007おたくでナルシストなシックボーイ、暴力的な酒飲みのベグビー、人情深いが臆病でヘロイン中毒のスパッド、彼女とのセックスをビデオにしたためて隠し持つトミーらとドラッグ、煙草、酒にまみれる生活を送る薬物中毒者の青年レイトンは、大人たちの退屈で決まりきった生活をくだらないと思う一方で、自分の堕落的な不良生活にもいい加減見切りをつけたいと考えていた。自身の優柔不断さや悪友たちとの関係に束縛されながらも、新しい生活を、新しい人生を見出すべくひそかに動き始めた。

 若者というのは往々にして犯罪行為に光を見出すものであり、また大人と言う存在についてやたら否定的で、軽視しがちであるが、とりわけそうした思想が根付きやすいのが米英、特にイギリスの労働者階級出身の若者たちではないだろうか。
始まって間もなく勢いよく主人公レントンの逃走の背で流れるはIggy Pop「Lust For Life」で、のっけからその勢いをもったいつけずに解き放ち、若者たちの心をぐっと掴んでいる。それから始まる醜悪極まりない描写のあれこれが始まり、綺麗も汚いもなくただひたすらに生々しく、鮮やかに映し出していく。そこに若気たっぷりなIggy PopUnderworldNew Orderをはじめとするイギリス出身のロックアーティストたちの楽曲が惜しみなく注ぎ込まれ、より含みを増して視聴者たちにぐんと迫ってくる。The Crush、The JamThe SmithsJoy DivisionStone RosesThe LibertinesRadiohead……、80年代に端を発したインディー・ロックブームを現在まで牽引し続けるイギリスならではのロックミュージックを多分に盛り込んだ音楽演出は必見。それから、「ビタミンCが違法ならやってた」などの若者らしいぶち抜けた発言も。

ただし、私が個人的に思うのは、この映画がこれほどまでに高く評価されているのは、決してそうした若者文化の反映、と言う点だけによるものではないのでは?ということだ。
この映画の中でも特に私が印象的だったのは、ドラッグによるトリップ、現実逃避を繰り返す青年たちのを描く横で、常に冷淡な、容赦のない現実を据え置き、同居させている事だった。
例えば万引きの罪で逮捕されたレントンとスパッドの二人が、レントンだけが憐憫を受け拘留を免れ祝杯を上げる後ろで、何も言わずスパッドの母が立ちすくむシーンや、レントンが更正し不動産屋への就職に成功する一方で、かつての友トミーは、恋人と破局し、ドラッグに手を染めた挙句にエイズに感染してしまっている……。こうした現実逃避もまたそうした容赦ない現実から完全に逃れることは不可能であり、刹那的な勝利に過ぎないという事実を、ユースカルチャーを陽気に映し出す一方で、まざまざと観客に向けて示しつけている。こうした独自のメッセージ性を強く反映させた映像演出の盛り込み方が非常に印象的で、単なる青春映画の枠として語るには非常に惜しい作品だった。


 それから、ついでに書いておくと、この映画に原作があった事が、非常に意外だった。起伏に富んだシナリオ、映画と言う表現にマッチした演出、どんでん返しのあるシナリオと、映画になるべくしてなった物語だと言うべき作品、と言った感じを受けたので、まさか原作小説などがあろうとは。しかしながら、このトレインスポッティング著者のアーヴィン・ウェルシュ氏は、英国文芸に於いてもきわめて著名な氏であるとか。単行本、文庫本、いずれも日本では廃刊の様だが、機会があれば触れておきたいところだ。