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映画:カサブランカ

映画

監督:マイケル・カーティス
脚本:ハワード・コッチ、ジュリアス・エプスタイン

第二次世界大戦下・パリ占領後のフランス領モロッコ、カサブランカを舞台として、米国への亡命を希望するフランス人イルザ、ラズロと、かつてイルザと愛し合った事のある賭博場の店長リチャードの三角関係を描いたラブ・ロマンス映画。

この映画についても選んだ理由と言うのは「有名であったから」という以外にない。兎角私は映画を教養づけに観ている感が強く、”一般的に評価が高い映画なら、私に面白い知識を授けてくれるだろうし、無心で観ればきっと私を愉しませてくれるだろう”と言った持論で映画を観ている。私に新しい知識と、愉しみと感動とを与えてくれる分かり易い保証書は、「有名であるか否か」だ。

感想は、「やはりこれも当たりだった。」と言った感じで、非常に満足度の高い、よく出来た映画だった。
ラブロマンス、というのをDVDのパッケージで確認し、少々劇画チックな映画なのかと予想したが、実際にはパリ占領後フランス領という中々現実感のある舞台で、パリ占領前の騒動で行方知れずとなってしまったかつての恋人と、カサブランカという亡命上重要な地点という巡りあわせによって再会し、欧州亡命、現ナチ政権に対する批判を織り交ぜながら、亡命者である地下活動家とヒロイン・イルザとリックの恋愛物語を展開していく、と言う、とてもよく練られたもので、ただの恋愛映画と馬鹿に出来ない。

私が気に入ったのは、製作をしたアメリカ側の視点と、ナチ批判を取り入れながらも、変な大義名分や平和主義の主張なんて政治臭いトピックは極力盛り込まずに、単なる嫌味な悪人としてドイツの軍人たちを立て、それらに反感を持つフランス人たち、という極めてシンプルな構図を作っている。そこにメインとなるチェコスロバキヤの地下活動家とその妻であり、かつてリックと恋仲で、共にパリ脱出を図った美女イルザ、そして主人公リチャード(リック)というこれまた極めてシンプルな三角関係が据えられる。一見すると単純なつくりだが、この設定が思いの外物語の美化に幾役も買っているのだ。
先ず一番に見えるのが、三角関係の中に共通してあるそれぞれの反ナチの思想で、当初イルザを冷たく突き放したリックを一歩先の段階に踏み込ませるのに一役買っている。更に、また後々に明らかになる、パリ脱出騒動時の行方不明についての真相や、過去に展開していた地下活動家ラズロとイルザの恋愛関係についての謎が解き明かされる。イルザに対しての理解と愛とが蘇るのと同時に、憎々しき恋敵だと思われたラズロと反ナチと、自国フランスの賛美と言う形で少しずつ頑なな心も和らいで行く、という形で、単なるラブロマンスに、独自の戦争下での自国賛美と反ナチの思想を込めているのだ。こういった一連の場面に、悲惨な戦線のシーンや、ドイツ人を極端に貶めるような描写が無いために、現実味を帯びたストーリーながらも、私見が無く、非常に創作らしい創作として出来上がっている。
私が個人的に名場面としているのが、賭博場の一角を占拠してドイツ国歌を他国民のいる前で熱唱するのに対して、地下活動家ラズロが、反ナチと一フランス国民としての誇りを以て、フランス国歌の熱唱で迎え、そのラズロの誇り高き精神を認めるリック、という風に映されるシーンで、私はこれが一番気に入っている。

更にそこから展開する物語も見事と言う他ない。ここから前面に押し出されるラブ・ロマンスは、一口だって文句が付けられないくらいに熱情的で、興奮させられる。夫婦として、お互いを亡命させようと頼みこむイルザ、ラズロと、それらを見て、それまで持っていたイルザへの憎しみが消えうせ、今まで想起されなかった新しい展開を迎える。
加えてラストの展開も見事で、ドイツ人にへこへこと頭を下げ媚びへつらっていたとある人物の思いもよらぬ立ち振る舞いによって、「良い意味で」裏切られる。

他にも、日本の洋画史上でも一、二を争う名訳と言われるリチャードの「君の瞳に乾杯。」と言った素晴らしい名訳や、黒人ピアニストのサムや、共にカサブランカの賭博場を運営する名も無き地下活動家の同業者。それからフェラーリと呼ばれているリックに理解を示す同業者など、脇役も時々に現れては、思わずにっこりとしてしまうような演技と物語を見せてくれる。不干渉主義ながらも人道主義を内に秘めるリチャードの立ち振る舞いを際立たせてくれる彼らもまたいなくてはならない存在であり、高評価の対象だろう。


王道のラブ・ロマンスを地で行きながらも、その時代を織り交ぜた独自のテイストを生み出すことにより、その王道感をそのままに迫力と熱情とを増すことに成功した素晴らしい作品で、ラブ・ロマンスの奥深さをひどく知らしめられた。
当時の時代背景なども含めた別の視点から見ると、また面白い発見があるかもしれない。後々また見直したい作品だ。