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映画:アラビアのロレンス

映画

アラビアのロレンス

監督:デヴィット・リーン
脚本:ロバート・ボルト、マイケル・ウィルソン

実在する英国人将校エドワード・ロレンスを主人公として、オスマン帝国(トルコ)からのアラブの独立戦争を描いた歴史映画。

先日観た「プライベートライアン」の監督を務めたスティーブン・スピルバーグが数ある映画の中でも特に影響を受けた映画として絶賛している、という話を目にしたのと、一般教養としても必要不可欠な映画であり、誰であっても観る必要がある、ということで観るに至った。

この映画は歴史映画である、という風にあらすじとして書いたが、戦争映画である、という風にも見られている。私が一度見た上での印象として、戦争よりも、政治について掘り下げている、というのがあったため、歴史映画だと書いた。
上映時間はきわめて長く、大体200分。冒頭と終末、それから中ほどには黒い画面に音楽が流れるだけ……というような演出と、物語の分割が行われている。世界観はきわめて壮大で、前述の通り、英国軍将校ロレンスが数多くのアラビアの民族と共に剣を取り合い、圧倒的な大砲と戦士とを持つ敵・トルコ軍とゲリラ戦を展開していく様は世界観、重厚な物語、演出と三つ全てい置いて大作と言うに相応しいもの。
また、歴史的な史実をそのまま描くのではなく、いくらかの美化と誇張とを加えながら、またその壮大さを際立たせるために戦争や砂漠の横断の演出も大きく盛り込まれており、戦争映画としても一件に値する出来の良さがある。

感想として一番最初に残るのは、アラビアの民族たちと英国軍将校ロレンスとの間にある無理解と、文化的な格差について強く印象付けるようにして描いている点。
この物語は単なる英国軍将校ロレンスの華々しい史実における戦果について英雄主義じみた誇張で以て描くのではなく、イギリスとアラビアの文化的な差異や、軍事力の差異、歴史情勢と言った部分についてしっかりと描き切った上で、物語を展開している。これが一番素晴らしいところで、実際のロレンス氏とは人物像や功績についていくらかの相違点はあるものの、変に創作じみた誇張を加えすぎず、且つ背景についてはきっちり説明を加えているために、非常に物語に現実味がある。観ている間も、そのアラビアの民族たち、戦士たちとの戦いに興奮させられる一方で、先の見えない戦線と、イギリス軍とアラビア民族たちとの思惑の狭間で揺れ、苦悩するロレンスについて、感情的にならずにはいられず、思わず無理解で強欲的なアウダたちハウェイタット族を憎々しく思ってしまったりする。
前半、後半の雰囲気の転換の仕方も見事で、まず前半を、アラビアの人々と文化とに惹かれ、彼らのために尽力し、アラビアのアリらハリト族からの賞賛をかち得、アラビア独立の道へと突っ走っていくロレンスとアラビアの人々という風に描いていく。それからブラックスクリーンの音楽から、徐々に明らかになっていく戦況と、闘争の後のアラビアの行末に憂いるロレンスという風に、大長編ながらもしっかりと場面転換について描かれており、捨て場面と言えるようなシーンがない。

それから、監督らや、監督らより事情を強く伝えられた、「アラビアのロレンス」の一ファンであるスティーブン・スピルバーグ氏の語る通り、映像へのこだわりも素晴らしく、その映像の美しさと壮大さは、1962年公開の映画とは思えないほどで、デジタルリマスターされたディスクでこの映画を観た私は、見終わって詳細について調べるまで、この映画は1990年前後に製作された映画だと考えていた。それくらいに、古い映画に見られるようなちゃちさが無いのだ。この部分はなんとも表現し難いので、どうか気になる方には是非、一度見て貰いたい。恐らく1960年代の映画とは思うまい。
特に私がこの映画の「映像美」という点で魅せられたのはロレンスとアリを中心としたハリト族50名が、一列に並んで夕暮れの沙漠の中を黙々と渡り続けるシーン。この時の先の見えない旅路の茫漠さとなんとも言えぬ心細さ、物寂しさというのは、全くの塩づけが無いにもかかわらず、酷く強調されている。このアラビアのロレンスでは、音楽にも結構なこだわりがあるようで、戦闘シーンなどのような場面ではこれでもかとばかりに激しい音楽が盛り込まれるのだが、逆に悲しさを感じさせるシーンは、役者の声以外何も使わないということがある。単純ながらこの対比表現が殊のほか効果てきめんで、受動者はその映像を目にした時、ぶるりと身体を震わせずにはいられない。
他にも蜃気楼の中を案内役のハジミ族のベドウィンと、ロレンスの前までラクダに乗ってアリが現れるシーンなんかも、特典映像で、スティーブン・スピルバーグ氏が絶賛されたとおりの素晴らしさ。

他にも、各アラビアの部族間にある、ハリト―ハジミ―ハウェイタットのような対立や、アラビアの国王ファイサルの思惑やロレンスが属する英国軍の思惑、と言った本題の政治的な問題も素晴らしいのだが、これは感想文なんかで核心に触れてしまっては面白くないため、控えよう。

それから、これは観た後に調べた文献で目にした事だが、この映画には、冒頭の謎についてのヒントが数多くの場面にちりばめられており、一度観た限りではなかなか解らないようなメッセージ性を孕ませている。これは一度見たばかりで偉そうに感想文を書くのはおこがましい、と思わせるくらいに。

映像美、世界観、物語、演出、配役とどれをとっても素晴らしい。史実との相違について問題点を挙げられながらも世界で絶賛されるだけの作品だと言わざるを得ない。
その規模と尺の長さと物語の複雑さから、少し私には敷居の高い映画ではあったが、極めて満足度は高い。前述の謎をすっきりさせるためにも、のちのち改めて観てみたいところだ。