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映画:プライベートライアン

映画

プライベートライアン

監督:スティーブン・スピルバーグ
脚本:ロバート・ロダット、フランク・ダラボン

行方不明になった空挺師団兵士、ジェームズ・ライアンの救出を命じられたミラー大尉ら8名の兵士とノルマンディー上陸作戦における橋梁の攻防を描いた戦争映画。

数多くの戦争映画の中でも、特別抜きん出て著名な作品で、戦争映画を観るならば、おそらく一番最初はこれであろう、というのは予感していた。現に戦争映画で何を観ようかと店に出向いた時に、一番最初に目についたのはこれだった。勿論これには理由があり、出演している役者が、先日観た「グリーンマイル」にも出演していたトム・ハンクスバリー・ペッパーであったのがその一番の理由。飽くまでも私は映画初心者で、「私の映画脳にビビッとくるものがあった」なんて評論家じみた文句は間違っても書いたりしない。

見終えての印象として一番に残っているのはやはり、吐き気を催すほどの生々しい戦闘描写と、最前線を戦う兵士たちの中に生まれた様々な思索や感情をこれでもかとばかりに肉々しく描いている点であろう。
始まりは第二次世界大戦で一、二を争う悲惨な戦線だったと言われるノルマンディー上陸作戦に於ける海軍のオマハ上陸作戦で、この時から既に映画の本編という本編が始まっており、私(受動者)は身を構える暇もなく、上陸十秒と経たずに生々しく血を流しながら、内臓を垂れ流しながら、手足を手榴弾に吹き飛ばされながら死んでいく数百と言うアメリカ兵たちをこれでもかとばかりに見せつけられる。結果は史実通りアメリカ軍の勝利なのだが、そこには激しく賛美された正義のための戦争というものはなく、残るのは武器と波打ち際に流れ着いた湾を覆う悲惨な死に方をした兵士たちだけであった。この時から既に戦争というものに対して残るのは畏怖のみで、これ以降のメインとなっているライアン二等兵の救出を観るのも、嗚咽と吐き気なしには不可能だった。

戦争についての知識と情念に薄い私にはあまりにも刺激的で、まるで私自身が今まさに戦争による死に晒されているかのような錯覚をしてしまうほど、この映画に没入していた。
特に私がこの映画に没入する中でひときわ親近感を抱いたのはアパム伍長。実戦経験がなく、今一つ戦争というものに否定的で、捕まえたドイツ兵士を律法と道理に反すると言う理由で逃がし、実戦に於いてもほとんど戦果を挙げられずにいる姿は、臆病な私の心に潜むそれと全く同じだった。
こう書くと私の映画についての見識の無さをこれまで以上に露呈させてしまうかもしれないが、私は、ライアン二等兵の救出は、映画として成り立たせる為の物語上の設定に過ぎず、真に強いメッセージ性を放っているのはこの心優しく気弱なアパム伍長についての物語なのでないだろうか、とも思っている。それ程、戦線を進んでいく中で変わっていくアパム伍長の姿は衝撃的且つ、ひどく悲壮感がある。特に最終盤での彼の先戦での振る舞いは主役となるライアンやミラー大尉よりも重きを置いて観るに値する。
この映画を単なるライアン二等兵の救出というアメリカ独自の英雄主義じみた映画と見るのでは、正直に言ってしまえば、面白くない。製作者が意識したのはそんな美談めいたお涙頂戴の物語づくりではなく、「戦争に肯定的な物さえ平和主義を唱えてしまう程に悲惨な戦争をこれでもかとばかりに生々しく描きながら、ライアン救出部隊員たちの心境の変化や、黙しながらも内に燃やす戦争に対しての否定的感情」という、もっと表現し難い描写なのだと私個人では考えている。

ただ、惜しむらくは、受動者側に反戦感情や憎悪の念を抱かせるために、ノルマンディー上陸作戦における敵国であるドイツ軍を、一方的な悪者に仕立てあげてしまった事だ。捕虜になった途端に地面に這いつくばって泣き、くたばれヒトラーと言って見せ、ひとたび逃げ出せばまた人を殺すドイツ兵。一方でアメリカ兵たちを家族を思う正義の戦士たち、という風に描いたのは非常に残念で、萎えさせられるところだった。この英雄主義じみた描写が、のちのちのアパム伍長の心境の変化に一役買っているほか、捕虜のドイツ兵たちに憎しみを込めて”俺はユダヤ人だ”とけらけら笑いながら騒ぎ立てるアメリカ兵などがあり、一概には否定できないのだが、これは良いか悪いかで言うならば、「悪い」部分だろうと思う。敵国であるナチス政権下のドイツ兵たちは皆サタンの腹の中で生まれた、両親も恋人も、友人もいない卑劣な悪魔の子のように描いてしまったのか、何故ドイツ兵についてもっと同情的でアメリカ兵たちのように心優しく描いてやることが出来なかったのか。敵対する互いの兵士たちの背景と、機微を描いてこそ、真に反戦のメッセージを唱えることが出来るのではないか。この部分が唯一の、残念な部分であった。

それ以外の評価については、私が書くまでもない。戦闘の真実味を増すためにこれでもかとばかりに生々しく人が死ぬ様を作ったとか、MG42や88ミリ砲の音は実銃から録音したとか、ライアン二等兵役を除く全ての役者が実際の兵士たちと同じ訓練を受けただとかといった製作背景としての評価は、私みたいな無知な初心者が必死こいて書く必要はないだろう。


何故この映画が数ある戦争映画の中でも一際注目、賞賛されているか、というのは嫌という程理解できた。少しばかりの個人的不満も残ったが、この映画が持つメッセージ性というのはきわめて普遍的で、強いもの。

暫く戦争をモチーフとしたファーストパーソンシューターやシミュレーションなんかには触れる気にならないだろうと思う。暫くはこの見終えた後のあの嗚咽による喉の痛みと、赤い眼について考えながら過ごすことにする。