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映画:雨に唄えば

映画

雨に唄えば
脚本:アドルフ・グリーン
監督:主演:ジーン・ケリー

無声映画から発声映画への転換期の模様と、自分の演技力に悩む俳優ドンと新人女優キャシーの恋を描いたコメディ映画。


ミュージカルというのが個人的にすこし苦手だった。あのわざとらしいオーバーな演技や、やたら派手な演出だったりがどうにも非現実的過ぎて没入できないというのが大きな理由で、ミュージカル発信の映画だと聴いた時は正直あまり観るのに乗り気じゃなかった。
ただ、知名度自体は非常にあるのだから、一度は見ておかないとまずいだろう、という事で観ることを決めた。

感想は、わざとらしい前置きの通り、「本当に素晴らしい映画だった」だ。
内容は私が想起していたようなミュージカルそのもので、終始笑いと大袈裟な演技によって進行される。が、それが鼻につくようなことはなく、現実とは違う一線引いた先にある演劇として、純粋に楽しく見ることが出来る。
物語は終始明るい雰囲気で、度々主人公ドン(ジーン・ケリー)と弟コズモ(ドナルド・オコーナー)のいずれか、或いは二人がおちゃらけた踊りを見せてくれる。特にコズモがドンの悩みに冗談と歌で答えるシーンでの、ドナルド・オコーナーのダンスは素晴らしく、その間中ずっとにやにや、くすくす笑いながら見ていた。また、それに加えて音楽が素晴らしい。ここ!と言うようなシーンでは必ず、素晴らしい音楽が入る。録音の問題から荒く、繊細さには欠けるが、それが反って直接的な演技を際立たせている。この映画の一番素晴らしい点はそこで、ミュージカルチックな快活な演劇を全面に押し出しながらも、音楽、物語性もきっちりまとまっていて、雑さを感じさせないのだ。今なお支持される大きな要因として、これが挙げられるのではないかと個人的には考えている。

それから個人的に感心した点がもう一点。それは、終始明るい雰囲気で話が進行しながらも、きっちりドンが持つ演技についての悩みや、新たな映画技術の台頭によるそれまでの映画技術が押しやられていく様をきっちりと描ききっているところ。特に、マガジンなどで盛んに取り上げられるドンとリナの架空の恋を大袈裟にかつ意地悪いものに描きながら、ドンとキャシーの間に芽生えた恋慕の情を健気に、優しく描いているのは見事と言わざるを得ない。くすくす笑いながらも、ちゃんと受動者側(私)が物語を把握し、「ただの快活なだけの映画じゃない」だと分かるところは非常に感心した。分かり易くありながらも、奥深さもある、面白い映画、面白い本、面白い遊びなど、あらゆる娯楽に於いて”良さ”の一基準として語られる要素の一つをきっちりと押さえている。
他にも、登場人物がかなり小規模に抑えられているために、登場人物を把握できなくなる心配がないのも良かった。それでありながらも前述のようにコズモ(ドナルド・オコナー)であったりリナ(ジーン・ヘンゲル)であったりの脇役が派手に振る舞ってくれたりすることによって、まったくこじんまりしていないのも良かった。

好きなシーンはやはり、Singin' in the Rainを唄いながら雨の中ドンが歩き回る場面。トーキー映画の台頭と共に未来を失った俳優の道と、恋の道が、キャシーと言う魅力的且つ才能ある女性の存在によって光を取り戻す、そしてそれらについてひたすらに歓ぶドンを見事に描いている。物語の深みを出す事に成功した別の一因として、この、外面に表しにくい感情を上手く演技に落とし込んだ、というのがあるだろうと思う。
他にも前述のコズモが踊り出すシーンや、ミュージカルにする、という方法により重くよどんだ空気の中にいたドン、コズモ、キャシーの三人がぱっと明るくなり、歌いだす場面、最終盤の、図に乗るリナに(ねたばれ回避のため不記載)し、(同理由により不記載)するシーンなんかも素晴らしいもので、一番はSingin' in the Rainだが、二番を決めるのはなかなか難しいところだ。

本当に素晴らしいものだった。映画の定番として広く知られるだけの良さがある映画だと、確信した。少なくとも以後は食わず嫌いで映画を選ぶことは減るだろうと思う。