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映画:ティファニーで朝食を

映画

ティファニーで朝食を
原作:トルーマン・カポーティ
監督:ブレイク・エドワーズ

自由の街ニューヨークを舞台に、売れない作家ポール・バージャックと思うがままに生きる女性ホリー・ゴライトリーとの愛を描いた作品。

原作ではホリー・ゴライトリーの生き様とそれに伴って相対する社会を描いているが、今作ではそれらの色味が薄れ、代わりにホリーとポールの恋愛色が強められている。

見終わっての感想としては、良い意味で大分小説との印象が違ったな。というのが一番だった。
私が読んだ訳書の執筆者が”あの”村上春樹だってのがどうも頭についてすんなり読めず、勿体ぶった格好つけな文体が気に食わない、なんて文句ばかりつけていた記憶がある。そこをいくと、この映画のテーマと言うのは実に明快で、分かり易い。

ポール―ホリーの恋愛を主軸として、ホリーの過去、ルラメーとドクの関係。O.Jバーマンのホリーに対しての考え方。サリー・トマトの危険な仕事といった、原作で度々一つの課題として挙げられてきたものが抜き出され、恋愛の一味として使われている。

普段は何でも原作が至高なのだと言ってきかない私も、今回ばかりは映画の方が面白いな、と思った。
もちろんこれは私が、原作の訳書が気に入らなかった事、抽象的に現されていた要素を恋愛の一要素として綺麗に放り込んでしまったことが個人的に好印象だった事があり、飽くまで観覧者全体の意見ではない。

配役については、ジョージ・ペパードという極めて気の強そうな凛々しい男だったのは非常に驚いた。原作小説を読んだ際には、冴えない優男みたいな雰囲気を感じていたため、配役を確認した際には「おい、彼がポール・バージャックなのかい?」なんて独り言を言ってしまった。
しかしながら暫く見てしまうと違和感は一切なくなり、寧ろ、「ポール役は彼以外に誰が適任だったのだ?」なんて事さえ考えるようになってしまった。
見た目こそ剛力そうな男なのだが、その裏に奥深い優しさと、包容力を感じた。特にラストシーンでの演技が素晴らしく、「おおッ!」と一言漏らさずにはいられなかった。
ヒロインのオードリー・ヘップバーンも、マリリン・モンローの代役としての抜擢だったが、かなりのハマり役で、こちらは私が小説を読んで想像したホリー・ゴライトリーその人だった。まさに「小説の中からひょっこり出てきた」という表現がお似合いの、素晴らしい自由的ヒロインだった。

原作小説の訳書(私が嫌ったのは飽くまで”訳書”であって、原著ではない)が気に入らなかった身としては、恋愛を主軸とした分かり易い物語構成が非常にありがたかったし、素直にそれが面白さの一要素になっているな、と感じた。
原作と比較しての作品の完成度、というのは、私には少し説明に苦しむところだが、少なくとも一映画としては十二分に高く評価できる作品だと思う。


余談として:今作で脇役として登場するホリーの上階に住む日系芸術家ユニオシ氏が、「イイ味」を出しているな、と思った。原作になかったちょっと冗談めいた演技も、一つの魅力として意識してみると、より面白く感じられるかもしれない。