読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

読書記録. サマセット・モーム「手紙」


また何冊か読み終えたので、その感想でも書かせて頂こうかと思います。

サマセット・モーム「手紙」

「手紙」は、作者の短編小説のうち、で最も優れ、また有名な作品である。
十中八九まで正当防衛と認められた殺人事件が一通の手紙の発見によって新局面が展開されるが、結局一万ドルで買い戻し、事件は闇へと葬られる。登場するレズリーと呼ぶ美貌の女の恐ろしい罪は、作者が小説構成を組み立てる計算から生まれている。
他短編「環境の力」収録。


先ず「手紙」について。
この作品は、正当防衛の名のもとに、無罪となるはずであった殺人罪が、ある一枚の手紙によって全く異なる局面を迎える――という話です。

私がまずこの作品で優れていると思ったのは、その構成の巧みさです。この作品はわずか六十頁ばかりの短編ですが、とてもそんな少ない頁数で書かれたとは思えないほど上手く組み立てられ、話の展開が簡素な分、文章もとても洗練されています。
半分ほど読み終えたところで、物語がまるで180度回転し、それまでとは違う衝撃を受けます。そして更に早くなっていく展開、そして最後にゆったりした調子の文章によって、真相を明かされることなく物語は終わってしまう…読後に残るこの煮え切らない何とも言えない気持ちが、しばらくの間私を余韻に浸らせます。

なんだかとても長い長編ミステリを、真相が分かる直前で読むのを辞めてしまったような、このもやもやとした気持ちと、その後の展開を想像することによって、さらに物語を楽しむこともできます。
彼の作品はこの作品が初めてとなりましたが、早くもモームが作り出す高い構成力に吸い込まれてしまったような感じです。


「環境の力」
独特の温かみを持つ男・ガイの求婚を受け、黒人の町で彼と二人暮らすことになった女性ドリス。同じ白人のいない中でも幸せに過ごしていたが、ある日家の前に現れた黒人女性の話をガイから話されたことによって、それまでの生活が崩れていく――という話です。

この作品は、筆者がこの物語に含ませた論理やメッセージ性を知ることによって、大きく印象の変わる作品です。
題名にある"環境の力"…これが物語の根幹となるのです。
長い間黒人しかいない中、一人白人として過ごしてきたガイはその長い期間の中で、自己の持つ民族性を崩され、"環境の力"によって、ある一線を越える…
それまで白人の中で白人として生きてきたドリスは、ガイとの生活を営む上で受ける"環境の力"と一線を超えた黒人女性とガイへの一種の暖かな反抗心によって、それらと離別する決断をする…

この「環境の力」に託された著者・モームの考え方、論理は、小説が終わった後の解説で詳しく語られています。この解説を読むか読まないかで、読後の物語の印象が大きく変わるので、是非この本を手に取られた際はこちらも一読して頂きたいですね。

巧みな構成力と思慮に基づいて作られた二作品は非常に魅力的で、面白かったです。次に読むならば、今度は「月と六ペンス」のような長編小説に手を出してみたいところです。



次回は三部作を読み終えた大槻ケンヂグミ・チョコレート・パイン」の感想を書かせて頂こうかと思います。