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読書記録. フョードル・ドストエフスキー - 罪と罰 上

鋭敏な頭脳をもつ貧しい大学生ラスコーリニコフは、一つの微細な罪悪は百の善行に償われるという理論のもとに、強欲非道な高利貸の老婆を殺害し、その財産を有効に転用しようと企てるが、偶然その場に来合せたその妹まで殺してしまう。この予期しなかった第二の殺人が、ラスコーリニコフの心に重くのしかかり、彼は罪の意識におびえるみじめな自分を発見しなければならなかった。(新潮文庫粗筋より)


懐疑的で、突出した頭脳と独自理論を持った青年、ラスコーリニコフが、自分の理論に基づいて思惟的に高慢な老婆を殺すと言う、現在の様な犯罪が日々横行する社会では新聞にさえならないようなちっぽけな物を題材にしているが、主人公の精神的苦痛、社会的苦悩や、昨今の腐敗した社会を風刺しているかのような半狂人で気違い染みた登場人物が農奴解放後の目まぐるしく変わっていくソビエトの思想変化を映し出し、強いメッセージ性を感じさせます。

文章からはなんともいえない醜悪な雰囲気が漂い、読んでいるだけでこちらの心さえも乗っ取られてしまいそうになります。
物語の導入部から、そのなんともいえない、恐ろしい空気が私を襲い、落ち着き払って読むことに集中できませんでした。

上巻での重要な場面はやはり、「マルメラードフとの出会いと死亡」「金貸し老婆とその妹、リザヴェータの殺害」だと思います。。

マルメラードフとの出会いは、その後の展開に重要な役割を果たすため、出来るだけ注意深く読みました。個人的には老婆殺害よりもこのマルメラードフとの酒場での会話の場面が印象に残っています。心優しくも自分の至らなさを嘆き、かつての幸せを恨みながら飲んだくれ、妻や子供への罪に苛まれながら生きる元官吏は、救いようのない悲しみと、家族を不幸に陥れながらも純粋な愛情を残していました。
いつもの様に飲んだくれて帰り、妻に殴られ髪を掴んで引っ張りまわされながらも「私は幸せなのです。」とラスコーリニコフに伝える場面は、ひどく悲しく、読んでいて泣いてしまいそうになりました。

老婆の殺害場面は、比較的端的に、重要な部分のみ抜き出して描かれており、殺しの描写より、主人公の心情が強く表されていました。
また、心優しい老婆の妹を殺害する場面は、思わず「あぁッ」と声を漏らしてしまいました。また、妹まで殺して惨めに逃げ帰る頭脳明晰な青年のその後の転落を思わせる文章をよく覚えています。

これからさらに展開していくこの殺人劇の顛末を考えるとひどく憂鬱になります。
早めに下巻を買ってくることにします

アルベール・カミュ - 異邦人

母の死の翌日海水浴に行き、女と関係を結び、映画をみて笑いころげ、友人の女出入りに関係して人を殺害し、動機について「太陽のせい」と答える。判決は死刑であったが、自分は幸福であると確信し、処刑の日に大勢の見物人が憎悪の叫びをあげて迎えてくれることだけを望む。通常の論理的な一貫性が失われている男ムルソーを主人公に、理性や人間性の不合理を追求したカミュの代表作。(新潮社粗筋より)


「今朝、ママンが死んだ」という一文から始まる謎の男、ムルソーの話です。
この主人公、ムルソーと言う男は非常に奇妙な人物で、先ず一つ大きな要素として、「感情を表に現さない」というのが挙げられると思います。
一般的な「常識」に縛られず、明確な思考回路を持って異邦人の如き彼は、何が正義であるかではなく、何が幸福かという点に重点を置いた思考回路だったのだと思います。つまり、ムルソーは「人に好まれるようにすべきである理由がないと同時に、好まれる行為など存在しない」と言う、ニヒリズム的な、虚無主義的な考えを持っているのだと考えられます。
彼の不可解な行動、掴みどころのない行動は極めて不気味であると同時に、不思議と違和感無く、自然な感じがします。

粗筋だけ読めば、ただ単に頭のおかしい人間の物語だとしか思えないのですが、一つページを開いてみれば、独特の感性と明晰な頭脳を持った男だとすぐに分かります。
また、何よりもこの本の面白い所は「主人公に同調してしまう」事だと思います。彼、ムルソーの行動はあまりにも突飛過ぎているが、冷静に考えてみれば、強ち間違いでもなく、考えようによっては大正解にもなってしまう。それこそ、母の葬式で涙を流さず、アラビア人を殺すような男でもです。


私がこの本を読み終えて、何よりも心に残っている一説は、やはり最後に書かれているムルソーの自己考察を完結させる文。

―私はママンのことを思った。一つの生涯のおわりに、なぜママンが「許婚」を持ったのか、また、生涯をやり直す振りをしたのか、それが今わかるような気がした。なんびとも、なんびとといえども ママンのことを泣く権利はない。そして、私もまた、全く生きかえったような思いがしている。このしるしと星々とに満ちた夜を前にして、私ははじめて、世界の優しい無関心に、心をひらいた。(一部抜粋)

最後の1ページだけでも十分に読む価値のある本だと思います。独特の無機質な雰囲気と、著者からの鋭い視線が感じられる一冊です。